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「こどもの国」の隧道(The tunnels in

「こどもの国」の隧道(昭和40年建造)

東京都大田区出身の私にとって、「こどもの国」(神奈川県横浜市)は小学校の遠足の定番目的地。昭和40年(1965年)に、当時の皇太子殿下(現・天皇陛下)のご成婚記念事業の一環として開園され、一般公募で決まったシンボルマークは、当時の東急・こどもの国線電車のヘッドマークにも揚げられた。

9月の暑い日に、およそ40年ぶりに「こどもの国」を訪れた。長津田(ながつた)駅からの東急こどもの国線は、車両こそリニューアルされたが、単線をゆっくり走るスピード感や、意外なほどに田園風景の残る車窓は、この40年で劇的な変貌を遂げた田園都市線とは対象的だった。
 こどもの国駅に着き、程なく歩道橋を跨ぐと「こどもの国」入口に着く。例のシンボルマークが、看板や標示などに残っている。5色のマークは、開園前年の東京オリンピックをイメージした当時の中学生のアイデアだそうだが、それはサーカスのピエロの帽子のようで、“昭和”の懐かしさがあった。
 入口を入って、園内Mapに沿って右手へ曲がると、いきなり、煉瓦の古びたポータルが見えた。第一隧道(46m)だ。
第一隧道 IMG_6784
 ファミリー向けの遊園でありながら、これは明らかに「隧道」であり、長さはごく短いものの、ポータル(坑門)の中には闇が広がっている。その闇の中へ、当たり前のように、ママと小さな息子の親子2人が入っていった。
第一隧道へ IMG_6779
 隧道に近づいてみると、植林した杉の木立や夏草の生い繁る“山”を貫いて、苔むしたポータルが構えている。ポータルはコンクリート製で、煉瓦風に「刻み」を入れて、煉瓦の色に塗ったものだが、開園から50年近く経過し、すでにポータルの上部が苔むしていて、隧道らしさが増している。人生50年で出る“味”のようなものか…。

 平日の午前中ということで、園内のお客は疎ら(まばら)だが、若いファミリーがポツポツと通り過ぎていく。小さな女の子はやはり闇を怖がるが、パパが隧道内で“お約束”の手を叩いたり、大きな声を出したりして、それがこだますることが分かると、女の子も真似をする。そんな微笑ましい光景は、私が今までに訪れた隧道では、まずもって見ることはなかったものだ。

 第一隧道を出て、牧場から道を左へ進むと、繁った木立の向うに隧道らしい側壁が見えた。しかも、側壁自体が渋い色に苔むしている。さらに左へ急カーブすると、第二隧道(75m)が現われた。
第二隧道IMG_6805
 今度は隧道として十分な長さ、そして闇が続いている。折しも空が暗く曇って、今にもポツポツ雨が落ちてきそうで、そういうシチュエーションだと、特に迫力がある隧道で、こんなものが「こどもの国」に現存するとは、と改めて驚いた。第一隧道はポータルを煉瓦色に塗装していたが、第二隧道は子どもを意識してブルーに塗っていた。しかし、やはり経年劣化で色が剥げ、しかも苔が吹いている。

 第二隧道を通り過ぎ、出口を振り返ると、そちら側がまた、凄い。ポータル上部からシダが垂れ下がっている。ポータルは一層“苔むし感”が濃く、デジカメのファインダーから覗くと「こどもの国」の“域”を超えたシュールな光景だった。そこを、SL風の園内バスが、SLのドラフト音の録音テープを流しながらやってきて、ゆっくりと隧道の中へ消えていった。
SLと第二隧道 IMG_6809
 SLも過ぎ去ってしまうと、“ツクツクホウシ”の蝉(せみ)時雨(しぐれ)に覆われ、ぽつりぽつりと雨も落ちてきて、前に訪れた滋賀県の深い山中にある杉本隧道を思い出した。平日の午前中ということはあったが、「こどもの国」の隧道の好ましい雰囲気は、隧道好きにとって申し分なく、40年前に遠足で訪れた小学生の「目」は間違ってなかった、と感じた。
 しかし、この先、時が経ち、この隧道はどうなるのだろう。隧道は補修されて、辺りの雰囲気はそのままかもしれないが、一方で少子高齢化が進み、「田園都市」の片隅にある「こどもの国」自体、どうなっていくのだろう。少なくとも、大田区の小学生たちが3両編成の「専用臨」を貸し切って「こどもの国」へ行ったあの時代が再来することはないだろう。そう思うと、あの日、釣り掛けモーターの音も勇ましく、“未開拓”の田園都市線をカッ飛ばして走っていた渋い緑色の電車の姿が心に甦る。
 その時の車両、東急3450系は「電車とバスの博物館」(東急田園都市線宮崎台駅下車)に、東急の”名車”として保存されている。Bトレインで作ろうかな。

※平成24年9月の画像です。

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